優しい手①~戦国:石田三成~【完】
絶えず高熱が続き、輿の中で眠り続けていた三成は、何度も桃の名をうわ言のように呼び続ける。


「桃…、どこ、だ…」


何度も目が覚めて、そして激痛に顔を歪めながらも、失神するかのようにまた眠りに落ちる。


それを繰り返し続け、そして大阪城に着いて、先に知らせを受けていた茶々が着物が汚れるのも厭わないままに飛び出してきた。


「秀吉様!……三成!」


「おお茶々、そんなに儂が戻ってきたのが嬉しいか。愛い奴め」


駆け寄ってきた茶々に触れようと馬から降りて伸ばした手を擦り抜けられ、苦笑しつつも次々と命を出す。


「誰か床の用意を。あと薬師を呼び、人払いをさせろ」


「どうか三成の床はわたくしの部屋へ」


必死の形相で美しい顔を寄せてきた茶々にでれっとなりつつ、頷いた。


「うむ、その方がいいじゃろうな。そなたの部屋ならば儂しか入れぬからの」


「ありがとうございます!…そなたは…三成の友人の…」


――馬上の幸村と目が合い、颯爽と馬から降りると茶々の前で片膝をついて、頭を下げた。


「拙者は真田幸村。越後の領主上杉謙信公の配下で、三成殿の…友人です」


三成の屋敷で会った時、この男は名乗らなかった。

この男が…あの真田十勇士の真田幸村――


鬼神と恐れられている男は若く、そして笑うと可愛らしかった顔は、今強張っている。


「三成は…危ないのですか…?」


「…危機は脱したと思われますが…熱が下がりませぬ。拙者は今から三成殿の屋敷に赴き、状況をお伝えしてきます。茶々殿…三成殿をどうか…」


「わかっています。わたくしに任せなさい」


凛とした表情で頷いた茶々に少し笑みを返し、再び騎乗すると、風の如く去っていく幸村の背中を見送り、そして城内へと担ぎ込まれる三成の傍から離れずに呼びかけ続ける。


「三成、しっかり!桃姫はどうしたのですか?そなたが愛して止まぬ女子でしょう!?」


――久々に見た三成の顔はここ数日の間でやつれ、苦痛に歪んでいた。


だが、茶々が焦がれた石田三成に相違ない。


「三成…」


何度も名を呼ぶ。


桃には悪いと思ったが…三成とまた会えて、嬉しかった。
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