優しい手①~戦国:石田三成~【完】
――何だか久々に謙信を身近に感じて、少しドキドキしていた。


…三成が帰ってこないまま3か月が経とうとしている。

その間ずっとずっと三成を想い続けて、毘沙門天に祈り続けてきたが…行方知らずのまま、時だけが過ぎてしまっていた。


その間、どれほど謙信が心を砕いてくれていたか。

そのことにようやく気付いて、坂を上がりながら手綱を握る謙信の大きな手にそっと触れた。


「…ありがと」


「ん、何が?」


「私…ずっとおかしかったでしょ?三成さんが居なくなってずっと…変だったでしょ?…嫌いになった?」


「…そうだねえ」


――“そんなことないよ”と言ってくれるかと思っていたのに、言い淀んだ。


謙信をも失うのでは、という不安と恐怖が競り上がって来て、手綱を絞ってクロを止めると馬上で体勢を入れ替えて謙信と向き合った。


優しく笑んではいたが…怒っているような気が、した。


「桃…三月待ったよ。三月だ。どういう意味かわかる?」


「え…、わかんない…」


再びクロを前進させて山の頂上に着くとそこからの光景は視界全てが黄金色の稲穂に満ちていて、思わず言葉を失って見入った。


「三月。君が三成と夜伽を共にしてから三月。…身体に変化はない?」


この前生理が終わり、謙信はそれを知ってはいたが、敢えて桃にそう聞いて、向き合っているままの桃を抱きしめると指先で頬を撫でた。



「三成との子が出来たとしたら、身を引こうと思ってた。だけど、違う。桃、もう三成のことは忘れなさい」


「…っ、無理、だよ…」


「彼はもう戻って来ない。幸村も軒猿も懸命に捜して三月だ。もう諦めた方がいい」



真顔で諭してくる上杉謙信。

だが現実を受け入れられない桃は何度も首を振って、それを拒絶すると…



「じゃあ、私は君から手を引く。身支度を整えて、尾張に戻るといい。クロも返すよ。私は考え事をしたいから、1人で城に帰って用意をして、帰りなさい。…今まで楽しかったよ」


「謙信さん…!?」



にこ、と微笑んで馬から降りると、そのまま下って行く。


「謙信さん…!」


2人とも、離れて行く――
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