優しい手①~戦国:石田三成~【完】
元親が現れてからというもの、幸村はこの優男から目を離さず、始終傍で監視していた。


「俺は味方だ。何故監視するのだ」


「桃姫に邪なことをなさらぬように見張っております」


包み隠さずそう口にした幸村の表情は毅然としていて、強い決意が現れていた。


「ほう…そなたも桃姫を?」


「拙者は桃姫をお守りする者。それ以上でもそれ以下でもありませぬ」


謙信と同じ種類の美貌の元親が廊下から見える陽の光に瞳を細める。


「長宗我部殿は我が殿より桃姫にご関心があるご様子。これ如何に?」


「いやなに、秀吉公が桃姫をたいそうお褒めになられていたので興味があっただけのこと。お言葉通りお可愛らしい方だった」


「…桃姫は我が殿の寵姫です。無礼なことをすれば…斬ります」


「ほう、一騎当千の真田幸村と刃を交えることができるのならば、それはそれで本望だ」


――睨み合っていると、天守閣から言い争いの種となっている者の姿が姿を現した。


「おお、桃姫が」


つられて幸村も顔を上げると、確かに桃が天守閣から見える景色に見入っている姿が見えた。


その隣に謙信が現れて、どこか遠くを指さしながら何か話している。


仲睦まじく笑い合っている姿が微笑ましく、桃が笑ってくれていればそれでいい、と達観した想いを抱いている幸村がつられて笑顔になると、元親は“姫若子”に似合わぬ男気溢れる言葉を口に乗せた。


「桃姫と夜伽を交わしたのだろうな。俺もぜひ桃姫をこの腕に抱いてみたい」


「長宗我部殿…あなたは危険だ」


「男として当たり前のことを口にしただけだ」


互いに一睡もしていないはずだが、桃の姿が天守閣から消えると再び部屋に戻り、読みかけの本を手にした。


――同時刻、桃は湯殿へと向かい、身体を綺麗に洗うと…腹を擦った。


「謙信さん…」


身体にはまだ、謙信が吐き出したものが残っている感触がする。


生理は毎月ちゃんと訪れているが、どうしたことか…止まってほしい、と思った。


「私にも…謙信さんや三成さんと一緒に居た証がほしいよ」


それは口には出せない。


出してしまうと、本当に戻れなくなるから。
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