優しい手①~戦国:石田三成~【完】
謙信が桃の手を離さない。


しかも熱く見つめ合っている。


――いらいらの頂点に達した三成が大きく咳払いをすると、桃が揺れる瞳で今度は三成をじっと見つめた。


やはりどこか様子がおかしく、そのままじっと視線を合わせていると…


「私…私…ごめんなさい、ちょっとお散歩してくるね!」


「では拙者がお供いたします」


控えていた幸村が桃の手を取って立ち上がらせると、それまであまり謙信たちとともに行動せず、自由行動していた政宗が腰を上げた。


「俺も行くぞ。桃、いいな?」


「え…、う、うん」


「では俺も…」


「幸村さん、政宗さん、行こ!」


三成を振り切るようにして桃が居なくなり、謙信が額に手をあてて深く息をついた。


「…謙信公?どうなっている?」


「…桃が、孕んだかもしれない」


「……なに?」


――想像もしていなかったことだ。


もちろん身に覚えがあり、謙信にも覚えがある。


だとすれば、どちらの子か――


いや、この際もうそれはどうでもいい。


もし孕んでいるのならば、全力で引き留めて…傍に置かなければ。



「貴公は…」


「私の子であってほしいと思う。…けど、生まれてみなければわからない。私と君の顔は正反対だからね、すぐわかるだろう」



この時謙信も三成も思っていた。



“どちらの子であっても、我が子として育てる”



それは意地の張り合いではなく、じわじわと胸に広がってゆくこのあたたかい感情は…


純粋に、桃との間に子が生まれるかもしれないという喜び。


「ああ、戦よりも大変なことになったね。薬師を呼んだ方がいいかな?」


「今呼んだとてわからぬだろう。その…月のものが来なければ…」


「うん。とにかく、身体を労わってあげないと。しかしこれは参った。桃が…子を…」


いつも顔色を変えない謙信の顔に、ほんのりと赤みが差した。


一生独身でいるつもりだったのに――


子が生まれるかもしれない喜びに、身を震わせた。
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