優しい手①~戦国:石田三成~【完】
「相模の北条軍と甲斐軍が合流!織田軍と小競り合い中とのことにございます」


それから数日、謙信と三成は桃につきっきりの状態で軒猿からの報告を受けた。


「じゃあ…景虎さんが?」


「うん、そうだろうね。北条軍は強いよ。あの子は北条の正当な血統の持ち主だから、きっとうまく切り盛りできるよ」



いよいよ織田軍との激突の日が近付いてきていた。

桃の吐き気も相変わらずで、最近は果実しか口にできないことも多く、元気がなくなっていく桃は見るに堪えなかったが…


「殿」


すらりと襖が開いて兼続が顔を出したが…何故か満面の笑顔。


三成が眉を潜め、謙信が首を傾げると…



「桃…!?」


「え………、お母、さん…?」



兼続を押しのけて姿を現わしたのは…もうずっと会っていなかった母親だった。



「桃!ああ本当に桃なの!?こんな…可愛くなって…!」


「お母さん…お母さん!お母さんだ!!」


「こんな時代に来てしまって…なんてことなの、会いたかったわ、桃!」



母にきつく抱きしめられた途端、涙が止まらなくなった。


父と母は織田信長に捕えられ、自分は今も原因がわからないままこの時代に飛ばされて…


でも、出会えた。


「お父さん…!お父さん、お母さん、元気だった!?迎えに来たからね、一緒に帰ろうね!」


――桃のその言葉に、三成と謙信が瞳を伏せた。


…やはり引き留めることは叶わぬ願いなのか。


何もかも手に入れてきたというのに、桃だけは手に入らないのか。


前世でも、今生でも、来世でも…?


「ぅ…っ、ごほっ」


「桃!?どうしたの、具合でも…」


「桃の親御だね。こちらへ」


謙信が部屋を出て声をかけると、桃の両親…茂とゆかりはその風貌ですぐに目の前の男が上杉謙信であることに気が付いた。


「あなたが…謙信公…」


「まあそうなんだけど、私と話を。いいかな」


「は、はい」


落ち着き払った謙信に恐縮しながらも茂とゆかりは頷いた。


三成も腰を上げた。


…何から話せばいいのか。

どこから話せばいいのか。
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