CHAIN
王子のように、生まれながら権力を
持って生きてきた人が、
必ずしも幸せだというわけでない。

王子は何より普通を望んでいた。
王の座を狙っている連中とは違い、
その宿命に苦しんでいる。
「王子、可哀そうだね……」
「あぁ……」
部屋に戻ってからは、
その話で持ち切りだった。

私が凛に、「人生は楽しむ為にある」
というような事を話している時、
窓の外で微かに物音がした。

私は立ち上がり、凛は花瓶を手にする。
真夜中の零時。
いったい何者なのだろう。

「熱入れて話し込んでも、
 ちゃんと聞こえるんだな。
さすがゼノ仕込みだ。」
声の持ち主はひょいと窓辺に現れた。

「久しぶりだな。」
「ん!アッサ!」
気が抜けて座り込む。
「驚かせるなよ。」
凛は花瓶を元に戻した。

「後一週間だぞ、地図は完成したか?」
「ん、ほとんどね。これは新しい地図。」
アッサに地図を渡す。
「三階がまだじゃないか。」
「ん、それは楓の所にあるの。
向こうに聞いて。」
アッサは頷くと窓辺から消えた。

「なぁ、前から思ってたけど、
何で話す時頭に“ん”を付けるんだ。」
「口癖だと思うよ。」
「俺と話す時は、付けない。」
「そうだったかな……」
「俺だけ仲間外れか?」
「そんな訳ないでしょ。」
「じゃあ何で俺だけ違うんだよ。」
「それは、えっと……」

「……まぁいいや。お休み。」
「お休みなさい……」

凛は、特別な存在だから。
そんな告白みたいな事、
言えるはずがない。
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