雨と傘と
最近、昼休みになると、兄貴と景さんが教室に遊びに来るようになった。

景さんはかっこいいし、色気を振りまいてるし、その軽い(チャラい)雰囲気で、女子に人気があるから、二人が来ると教室内がほのかに色づく。

兄貴はもちろん、幸葉に会うために来ている。


そんな時は、気付かれないように廊下に出るんだ。窓から、ぼんやり外を眺めた。



「サクー。元気ないね。」

「景さん…」

いつの間にか隣に立っている兄貴の親友。

「二人がいちゃつくの見たくないよね。」

この人は、俺の気持ちなんてお見通しだ。見た目も話し方も軽いけど、何に対しても鋭いこの人は、わざと軽薄そうに装ってるのだと思う。

ホントに、この人、中2?と時々…しょっちゅう思う。
そして、つい本音を話してしまう。

「俺、二人を見てるともやもやして、苦しいんです。二人には幸せでいてほしいのに…そんな自分が嫌になる。」

景さんは少し影のある笑みを浮かべた。

「二人が幸せ?本当にそう見える?だとしたら、何も分かっていない。現実から目を背けていたら、大事なことを見落とすんだよ。」

そう言って、俺の肩をポンと叩いて教室に入っていった。





二人が、幸せじゃ…ない?

どういうことだ?俺は何も見ていないのか。あの人は何を俺に伝えたかったんだ。

でも…二人から目を背けていたのは確かなことだった。兄貴とも幸葉とも、最近面と向かって話していない。自分の苦しみに負けて。痛みと向き合わずにいれるように。


…それじゃ、ダメだよな。

でも。俺は一体どうすればいいんだろう。
考えても考えても、答えは見つからなかった。



そんな気持ちのまま、放課後になった。
部室で着替えて、グラウンドに出ようとして…

帽子がねぇ…

教室に忘れてきた。考え事してたからな。思わず、ため息が漏れた。

「景さん、ちっと教室に帽子忘れたんで、取ってきます。」

「サクが忘れ物なんて、珍しー。俺が余計なこと言っちゃったからだよねー。その様子じゃ、練習に集中できないよ。ちょっと頭冷やしておいで。みんなには上手く言っておくからー。」

そう言ってウインクする姿には正直吐き気がしたが…言ってくれてることは確かだ。動揺が表に出るなんて、俺らしくない。こんな状態でグラウンドに出て、良い練習なんてできないだろう。まして、自分が怪我をするくらいで済むならいいが、先輩達まで巻き込んで怪我させたら…迷惑はかけられない。

「じゃあ、そうします。すんません。」

景さんの好意に甘えて、教室に向かった。

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