契約恋愛~思い出に溺れて~


「紗優、ちょっと落ち着いて。……母さん、子供の前でそういうこと言わないで」

「わ、分かったよ。悪かったね。ごめんね、紗優」

「……う」


母は、すぐに謝った。

すると怒りの行き場がなくなってしまったのだろう。

真っ赤な顔で怒っていたはずの紗優の表情が、空気が抜けていくようにしぼんでいった。


「……おじちゃんに、あいたい」

「紗優」


泣きだしそうな声で、紗優は確かめるようにもう一度呟いた。


「おじちゃんに、あいたいよう……」


その言葉に胸が詰まって、私は紗優を抱きしめてその髪に顔を埋めた。

保育園の匂いがする。
この小さな体で、長い時間を保育園で頑張って。

家でもきっと、祖母に対してお利口でいようとしていたのだろう。

その紗優が、心の支えにしていたのは、英治くんだったなんて。

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