契約恋愛~思い出に溺れて~


 それから数日後。
オフィスビルの立ち並ぶ通りを、私はせわしなく歩いていた。
後ろからついてくるのは、入社2年目になった青柳くんだ。


「……それで? 先方は何ですって?」

「だからあの、仕様書とプレゼンのときの内容が食い違ってるって言われまして」

「プレゼンの時の議事録は? 質問された事とか、メモはしなかったの?」

「あ。あの、すいません」


小さくなって頭を下げる。

まだまだ新米である彼を、ただ責めるのも違う気がする。
私は一つ溜息をついて、彼の肩をポンとたたいた。


「とにかく、まずは平謝り。
それでもう一度、仕様書と食い違っているのはどこか確認しましょう? 

大丈夫よ、まだ設計書の段階だもの。
この時点で問題が発覚したのは、被害としては最小限よ」

「はい!」


青柳くんが元気を取り戻したので、私も少し歩みを緩めて彼の脇を歩く。

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