僕は生徒に恋をした
「私は酔い潰れて寝てしまった先生をベッドに運んだだけ。
自分のしようとしたことが恥ずかしくて、すぐにタクシーで帰りました」

あの夜、佐藤先生とは何もなかった。
その事実に拍子抜けする。

ずるいのは俺も同じだ。
事実を確かめるのが怖くて、俺もその話題を避けていたのだから。

「何で…、それを話してくれたんですか?」

それを隠し通して、責任を迫れば、いつだって俺を自分のものにできるのに。

「二ヶ月も手を出してもらえないのも女性として辛いの。
今日は勝負のつもりだったんだけど、まさかこんなことになるとは思わなかったな…」

今度の佐藤先生の笑顔はいつも通りだった。

「送ってくれなくて大丈夫。
一人で帰ります」

佐藤先生はさっきの山田と同じセリフを残し、颯爽と出て行った。

もう彼女たちに必要とされていないのだと分かり、寂しいようなホッとしたような不思議な気分になる。

俺はようやく、自分でかけた呪縛から解放されたようだった。
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