2 in 1

ミクティ

木村宇美にとって携帯電話は命の次に大事なものだった。去年高校に受かって、親にやっと買ってもらった。高校に入って初めて、携帯電話を持つことを親に許してもらった。宇美の両親は“他人は他人、うちはうち”という考え方で厳しかった。父親の勲は公務員で役所に勤めていた。最近は宇美と全く会話がなかった。母親の公はパートでスーパーのレジをやっていた。過保護で何かとうるさかった。宇美はウザったく思っていた。宇美は独りっ子だった。だから兄弟に憧れていた。
幼なじみの古賀裕二は宇美が小さい頃から兄弟みたいに仲がよかった。家も近所だった。宇美が初めて友達だと認めた奴だった。裕二はサッカー部に入っているくらい活発な男だった。中学時代、学年で1番人気があった中今美嘉ちゃんと付き合っていた。今は推薦で決まった私立南野高校に通っていた。とにかくいろんな面で宇美とは対象的だった。多分幼なじみじゃなかったら、一生関わることがなかっただろう。
宇美は女の子みたいな自分の名前が嫌いだった。いっそのこと女の子だったらよかったのにと何度思ったことか。海好きな両親が当て字で付けたと昔聞いたことがあった。だったら“海”にしてくれたらよかったと思った。今までこの名前のせいで女の子と間違えられたり、冷やかされたりしてきた。そのたびに両親を恨んだ。宇美は内向的で、おとなしかった。自分の意見を持っていても発表できなかった。人と向き合うことが苦手だった。当然彼女ができるわけがなかった。
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