2 in 1

イヴの真実

風が冷たく感じてきた12月の日曜日だった。突然宇美の自宅に速水がお見舞いに訪ねてきた。
ピンポンとチャイムが鳴ったので、宇美がドアを開けると、そこには少し緊張した面持ちの速水が、右手をちょこっと上げて立っていた。
「速水先生…。」
速水を見るなり、宇美は急に泣けてきた。速水の姿がぼやけて滲んだ。
「よぉ、具合はどうだ?」「はい、おかげさまで大分落ち着きました。」
「そうか…。」
「先生、助けてくれてありがとうございました。」
最後の方は言葉にならなかった。宇美一人だったら人目を憚らずに速水に抱き着きたかった。涙が枯れるまで泣きたかった。でも親父の勲がいたのでできなかった。玄関での立ち話も悪いと思った宇美は、上がってもらうようにすすめた。しかし、速水は遠慮して中に入ろうとはしなかった。少しばかりのやり取りを聞き付けて、勲が顔を出した。二人が顔を合わせた時、二人の間に微妙な空気が流れた。宇美はそれを見逃さなかった。
「…この度は息子を助けてくれたそうだな。ありがとう。礼を言うよ。」
「いいえ、こちらこそ。私の監督不行き届きでこんなことになってしまってなんとお詫び申し上げたらよいか…。…では、私はこれで…。じゃあ、お大事になっ。」
いつもの握手はなかった。宇美は
「先生行かないで。ずっとそばにいて。」
階段を降りていく速水の背中に心で叫んだ。さっきの勲と速水の様子は、なんか芝居がかって不自然な感じがした。もしかして二人は顔見知りなのだろうか。宇美は速水が帰った後、勲に「速水のことを知っているのか。」
と尋ねた。
「あぁ、ちょっとした知り合いだ。」
と勲は言った。勲が速水を知っていたなんて初めて知った。宇美はこれまでの速水との出来事を勲に話していなかった。
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