春となりを待つきみへ

お互いに違う細胞から誕生しながらも、この世に存在した瞬間から寄り添って生きる、二卵性双生児。


わたしと春霞はまさにそれで、まだろくに人の形すらしていなかったときから、お互いの側で生きてきた。



一卵性みたいに、血以外の繋がりがあるわけじゃなかった。


でも、違う人間なのに、生まれる前から一緒に居る。



その方がよっぽど、わたしにとっては、特別な繋がりだった。




常に潮の香りが漂う海辺の小さな田舎町。

そこでわたしたちは、とても“春”とは言い難い、真冬の季節に生まれた。

だけどそれが1月だったことから「正月も、春って言うだろ」という両親の半ば無理やりなこじつけにより、わたしたちの季節はずれな名前は誕生の数か月前から決められていた。


春どころか、雪がびゅうびゅうと降り続く絶好調な冬時の、雪景色のなか束の間現れた晴れ模様。


それを待っていたかのように、わたしたちはお医者さんが切った母のお腹の中からおぎゃあと元気に誕生した。


双子はお腹の中ですくすくと双方順調に育っていたけれど、その病院じゃもうずっと、多胎妊娠の場合は帝王切開を行うことになっていたらしい。

母は、赤ちゃんが元気に生まれてくれれば方法なんてどうでもいいわと思っていた人なので、予定通り、入院して、陣痛が来て、わたしたちがぬろんと産道を通ってしまう前に、お腹を切った。



そのときに、たまたま、本当に、たまたま。

取りやすい方に居たのか、お医者さんがわたしを先に取り上げてくれたおかげで、わたしは“姉”という生涯優位に立てる絶好の立ち位置をゲットしたわけだ。
< 107 / 321 >

この作品をシェア

pagetop