銀杏


こんな所で立ってても仕方ないな…帰ろ。

歩き出そうとして体が後ろへ引っ張られた。

見ると門扉の取っ手にバッグの紐が引っ掛かってる。

それを取ろうとガチャガチャしているとカシャン…と扉が開いた。

あれ…開いてる。

そっと中へ足を踏み入れた。

伸びた草が足首をくすぐる。ガサガサと音をたてながら玄関の前まで来た。

……まさかね…。

ドキドキしながら…引いてみる。



ガチッ



はぁ…やっぱり開いてないや。何を期待してるんだろ。

今度はハナちゃんが繋がれていた方へ回る。

主のいなくなったドッグハウスは、ペンキが剥がれ落ちて寂しく佇んでいた。

そこからリビングの大きな窓を見上げる。

ついこの間まで温かい部屋だったのに……。

窓はきっちり閉まってレースのカーテンが引かれている。
中の様子は窺い知ることはできない。
ドッグハウスを見つめ小さく息を吐き出すと、もう一度窓に視線を移す。




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