銀杏


尊はそのまま咲を抱き締めた。
無言で抱き締める尊の手に力が籠る。

……尊?

「………」

静かな息づかいが身体を伝って流れ込んでくる。
しばらくじっとしていた。

尊はゆっくり咲から離れると「博貴さんにこの事は?」と訊いた。

「まだ。だってついさっきだもの。」

「そっか。」

「………。」

そこから先の言葉は出てこなかった。
私は尊と一緒に帰るべき?それともお父さんの所へ行くの?
頭の中でぐるぐる廻る。

尊は「行こう。」と咲の手を引いた。

どこへ?

ドキドキしながら引かれる方へついていく。

さっき通り過ぎた商店街を歩きながら、尊は話始めた。

「今日は博貴さんのとこに戻れよ。そしてちゃんと話しろ。で、これからのことは二人で決めよう。いいか?」

「…うん、わかった。」

「よーし!じゃあ、今日は大サービスで家の前まで送ってやる。感謝しろよ。」

途端に上から目線になった尊にため息を吐く。

でもいいの。こんな冗談は尊の心が安定している証拠。

久々に肩を並べて歩いた。




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