四竜帝の大陸【青の大陸編】
~おまけの小話・ハクちゃんの秘密<前編>~
(*セイフォンの離宮でのお話です)
 
  
りこが寝入ったのを確認し。
我はデルの木の下へ、術式で移動した。

根元に座り。
両手を月明かりにかざした。

「……ふむ」

硬い鱗。
4本の短い指。
鋭い爪。

りこの手を思い出す。
 
柔らかな皮膚。
ほっそりした5本の指。
小さな貝殻のような可愛らしい爪。
我を抱き、撫でてくれると気持ちが良くてうっとりしてしまうのだ。

それに比べ。
我の手は。

「……っ」

見慣れたこの竜の手が。
醜くおぞましいものに感じてしまう。

「我だって」

爪で鱗をむしりとる。
むしっても、むしっても。
一瞬で再生される。

「我だって、りこに触れたいのに!」

毎朝、我のりこの髪に触れているのは。
我のこの手ではなく、<青>が送り込んできた竜族の雌の手で。
黒い髪を梳かし、結い上げ。
花を飾り……。

「我のりこだ! この我のつがいなのだっ!! 我の、我のっ!!」

この手であの髪を愛で、肌に触り。
この指で唇を撫で、もっと深く触れ合いたい……。

「こんな爪は、いらん!」

鋭い爪は。
剥がしても、剥がしても。
減ってはくれない。
再生するなと命じても、我の意のままにはならない。

「……指ごと落とせば」
「やめときなさいな。指だって生えるに決まってますよ、旦那」


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