四竜帝の大陸【青の大陸編】
「じじい……ヴェル?」

おちびが浴室に消えると。
じじいはその場に蹲った。

「っ……<青>!」

おちびを無意識に追うかのように伸ばされた右手を、左手で床に押さえつけていた。
鋭い爪を常より数倍伸ばし、右手の甲に4本全て貫通させ床に左手を縫い付けていた。

「<青>、我を踏めっ。早くしろっ! ……けっして我に、りこを追わせるな!」
「分かった」 

俺様は身体の内部損傷がいまだ完治には程遠く、動くたびに激痛が走る状態だったが。
正直に言えばこのまま座っていたかったが、なんとか腰を上げ。
じいいの小さな身体を踏みつけ、押さえた。
おちびの周りから雄を排除したがるじじいが、俺様をここへ連れてきたのは。
じじいが俺を同行させたのは、この為だと分かっていた。

おちびを他の雄に……人間の男に触れられたヴェルは。
人間のおちびにとって、とんでもなく危険なのだ。
じじいは自分自身からおちびを護るために、俺様を連れてきた。
竜の雄は、雌をとても……とても大事にする。

その分、独占欲が強い。
まして、じじいは蜜月期中で。
他の雄の存在を一切許せないはずだ。
つがいに触れられたら激怒し、その男を引き裂き。
強い独占欲に支配され、雌を激しく求めてしまう。
肉体強化に失敗したおちびに竜の激情をぶつければ、かなり辛い目に合わせることになる。
いくら強い回復力があるといったって、それはおちびにとっては肉体的にも精神的にも辛いことだろう。

「……なんで、異界人のおちびがつがいだったんだろうな、ヴェル」

通常の蜜月期の雄ならば。
北棟の庭で、雌を押し倒し強引に行為に及んでいる。
おちびは男にただ触れられただけじゃない。
どす黒い血を、体液を付けられたんだ。
じじいがぶちぎれても、しょうがない。
だが、このじじいはそうはしなかった。
おちびに無理強いをせず。
邪魔した俺を、殺しもしなかった。
つがいに触れた男を引き裂きに行きたいだろうに、我慢して。
 
「やっぱ、じじいは」

俺様に踏まれてる、小さな白い竜は。

「ヴェルはすげえなぁ」 

本能を理性で抑え。
心も身体も脆いおちびを自分自身から護るため、他の雄竜に足蹴にされる事すら厭わない。

世界最強の竜である、じじいが。
この世の全てが恐怖にひれ伏す、最凶最悪の男が。
どこにでも居るような、平凡で小さな娘の為に……。
 



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