四竜帝の大陸【青の大陸編】
「あ……ありがとうございます」

お礼を言って受け取ると、その花からは柑橘系の良い香りがした。

「……あ、良い香りですね」

それは、憶えのある香り……。
あっ、ダルド殿下のマント!
彼への……セシーさんとミー・メイちゃんへの手紙、まだ書き終わってなかったっけ。
今夜、続きを書こう。

「姫さん、こいつ等は俺と同じ竜騎士だ。城の警備も俺等の仕事なのに、捕まえてた侵入者を不手際で逃がしちまった。姫さんを怖い目に合わせて……すまなかった。で、まあ。早い話が、姫さんから旦那に、ちょこっとお願いしてくんないかなぁ~」

ダルフェさんは私の膝で丸くなったまま、微動だにしないハクちゃんを緑色の眼で……チラリと見て言った。
そして……端正な顔に似合わない、引きつった笑みを浮かべた。
どうしたんだろう?
もしかして、ハクちゃんはダルフェさんと念話(対象者しか聞こえないほうの)で話したのかな?

「私がハクちゃんに、お願い……あっ、分かりました!」

なるほど、そうだよね!?
ハクちゃんは、私の夫だものっ!

「ハクちゃん! ハクちゃんからもお礼言って、お礼! 私、この子達のおかげで攫われなかったの。この子達が泥棒のおじさんを追い払ってくれたから、お礼……ハクちゃんも皆さんに、ご挨拶して」
「へっ? 姫さっ……ま、いいかぁ」

私は膝の上で円くなっていたハクちゃんを、ひょいっとテーブルの上に移動させた。
ハクちゃんは昼食が終わってからずっと私の膝で丸くなって、眼を閉じ静かで。
寝てはいないはずなんだけど……疲れちゃったのかな?
目玉が真っ白になったくらいだし、ここへ戻って来た時もなんか様子が変だった。
ダルフェさんがヒンデリンさん達を連れて来ても体勢を変えず、一瞬薄目を開けてちらりと見ただけで完全に無視していた。
私の膝で丸くなって、動かない。
疲れてるにしろ、あんまりなその態度。
でも。
失礼極まりないその態度を諌める人は誰もいなくて、全く普通に会話が進められていき……。
私は内心はらはらしていたので、これはチャンスと……。

「パスハリス君とオフラン君、さっきはありがとう! ヒンデリンさん、お花をありがとうございました。とっても嬉しいです! えっと、私はとりい・りこです。トリィって呼んで下さい。ご、ご存知かと思いますが、このハクちゃ、ハクのつがいです。先日からここで、お世話になっています。夫共々、ご迷惑をかけることも多いかと思いますが。あ、もうかけちゃってるんですがっ……よ、よろしくお願いしますっ!」

私は立ち上がって、頭を下げて挨拶をした。


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