四竜帝の大陸【青の大陸編】
私が着替えて居間に行くと、ハクちゃんとカイユさんがいた。
何か話していた2人はぴたりと会話を止め、私を見た。

「あ、う、えっと……」

挨拶、なんて言うべきでしょうか。 

「見るが良い、カイユ。ほら、りこは無事だろう?」

ハクちゃん金の眼を細め、顎を少し上げ得意げに言った。
ガウンをだらしなく着て、ふんぞり返ってソファーに座ったハクちゃんは相変わらずの無表情。
でも、その眼は……いつも以上に柔らかく蕩けるようで、彼が非常に御機嫌なのだと私にはわかった。
基本的に無表情なハクちゃんだけど、彼は眼に感情が表れる。
瞳孔の変化が最たるもので、今日の午前中もびっくりしたし。
今の彼の眼は、ずぶぬれの姿で私を求めてくれた時と全く違う。
あの時は……とっても綺麗に微笑んでたのに、瞳はどこか悲しげだった。
それを見た私はなんだかとっても切なくて、愛しい気持ちがぶわわ~って込み上げてきて。
私、自分から……。

「りこ。立っていないで、ここに座れ。まだ身体が安定しとらんのだから」

人生最大の大胆行為を思い出してしまい、脳が沸騰しそうな私にハクちゃんが自分の隣をぽんぽん叩いて言った。

「あ、う、う、はいいぃっ!」

とりあえず、ハクちゃんの隣に腰を下ろした。
背筋をびしっと伸ばし、ぎゅっと握った両手を膝の上に置きカチンコチン状態の私に、カイユさんがいつもと変わらぬ優しい笑顔で言った。
 
「トリィ様。クッションを……こうするとほら、楽な姿勢をとりやすいですよ? 食事の仕度や片付けのお手伝いは、今日は無しです。カイユとダルフェにお任せ下さいませ。さあ、もう少しここで横になって休んでいて下さい」

カイユさんは私の身体に手を添え、ゆっくり撫でてくれた。

「カイユ、ありがとう。あのっ……お茶、ごめんなさい」

そう言った私に聞こえてきたのは、カイユさんの澄んだ声ではなかった。

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