四竜帝の大陸【青の大陸編】
「もうお止め、<黄>」

凛とした女性の声。
強い口調で言ったわけじゃないのに、黄の竜帝さんはびくりとして……ぱっと、レモン色の歯を持つ口を小さな両手で押さえた。

「見苦しいまねは、止めてちょうだい」

いつの間にか、もう1つの伝鏡に赤い竜が映って……現れていた。
部屋は薄暗くても。
竜帝さん達が現れたら伝鏡自体がぽうっと明るくなって、その姿をはっきりと見ることができた。

「初めまして、トリィさん。私は<赤の竜帝>……お会いできて、嬉しいわ」

真っ赤な竜は光沢がある緋色の生地に金糸の刺繍が施されたクッションを小さな手で引き寄せて、ふわりと座った。

「ごめんなさい、トリィさん。あの子も悪気があったんじゃないの……ヴェル、<黄>を怒らないでちょうだい。……まあ、貴方が‘怒る’なんてこと、今まで一度も無かったけれど」

上品に両足をそろえて座る姿は気品があり、かわいいというよりも……上品で綺麗。
真紅の鱗に、真紅の瞳。
赤……この鮮やかな真紅は。

この色は。

<色持ち>のダルフェさんと同じ赤だ。
この赤が、竜帝の赤であり<色持ち>の赤なんだ……。

ーーーーギリッ

「いえ、あの。私こそ、こうしてお会いできて……ハクちゃんっ?」

今の音、何?
ギリッって……ハクちゃんから聞こえたような?

ま……まさか、歯軋り!?

赤の竜帝さんは存在そのものが、宝石の様な美しい竜だった。
でも、見蕩れている余裕が私には無かった。

「…………ブランジェーヌ、リンエルチィル」

ハクちゃん、お顔がちょっと……お目々が少々怖くなってます。
お口元もちょびっと引きつってるというかっ……。
そのお顔では貴方の言っていた<世界一かわゆい>から、どんどん遠ざかってますって!
うわわぁ~、かわゆいとは反対方向に向かっていますよ!?

「貴様等……なぜ、竜体なのだ。<赤>と<黄>は、人型で過ごすのを好んでおったではないかっ!……ランズゲルグ、お前かっ!?」

室内の温度が急に下がり、部屋中にきらきらした白い光が雪のように舞い始めた。
わっ……綺麗!
テレビで視たダイヤモンドダストみたい……なんて言ってる場合じゃな~い!
ひぃいい~!?
これは離宮での展開とちょっと似てる気が……。

「お、俺様はっ! ヴェルがなかなか来ないから世間話っていうか、おちびの話をしてて。そんで、ついぽろっと、おちびは鱗が……竜体が好きだって言っちまっただけでっ! そしたら、<黄>が<赤>にもっとお洒落しようとか言ってよ! まさか人型から竜体に変えてくるなんて、俺様も考えなくてだなっ」

あぁ、女神様。
貴方はなんて、正直なんでしょうか。

「……言い訳はそれだけか? ランズゲルグよ」

女神様。
自分で自分の首を絞めていますよ?


< 427 / 807 >

この作品をシェア

pagetop