四竜帝の大陸【青の大陸編】
「よ、よう姫さん! ほら、大丈夫だって俺は言ったろうハニー……ぐがぁああ! 腕抜けたー!!」
 
扉を蹴って開けたカイユさんが、自分を抑えていたダルフェさんの両腕をぐいっと変な方向にひっぱると同時にダルフェさんがしゃがみ込んだ。
あっけにとられて固まった私を、走り寄って来たカイユさんがぎゅっと抱きしめて言った。

「怪我は無い!? あぁ、無事で良かった。可哀想に、たくさん泣いたのね……泣かされたのね」

前半はとっても優しい声で、後半はまさにブリザードだった。
水の妖精さんみたいなカイユさんだけど、時々……まるで<氷の女王様>みたいな雰囲気に変わる。

セイフォンでもセシーさんやミー・メイちゃんを見る眼は、私に向けるものとはあからさまに違っていた。
その理由を、私は知ってしまった。
カイユさんは、この世界の人間を憎んでいる。
お母さんを裏切った人間という生き物を、嫌悪している。
 
「カイユ、ごめんなさい。いろいろ心配かけて、ごめんなさい……母様」

カイユさんの‘思い込み’は出産後も変わらなかった。
かえってひどくなった気がする。
前よりも【自分はトリィの母親】だという意識が、こうしてはっきりと表面に出てしまっている。
 
「さっき、ハクちゃんが酷いことをっ……! さあ、謝ってハクちゃ……えっ?」
 
カイユさんの腕の中で、くいっと顔だけハクちゃんに向けて言った。
さっきまでソファーでふんぞり返っていたハクちゃんは、なんと……。

「な、何やってるの?」

居間の中央で体育座りをしていた。
2メートル越えの彼が、ちょこんと体育座り……。
あ、床からちょこっとお尻が浮いてる。

「ん? 人型でも‘ころころ’ができるか、試そうかと思ってな」

ころころ?
前転のこと?
なんで今、このタイミングで!?

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