四竜帝の大陸【青の大陸編】
本日のランチはトマトソースのパスタ。
なんと、セレスティスさんのお手製のトマトソースなのです。
パスタは食堂で毎日作られている生パスタで、リングイネとフェットチーネの中間のような平たいパスタだった。

ハクちゃんが竜帝さん達を転移させて、その後セレスティスさんもまたお庭から足取り軽く去っていき……入れ替わりでパスハリス君達が来て、腕組みをして仁王立ちカイユさんの視線を避けるようにして大きなテーブルを運び出した。

何かを点検するかのように元通りになった温室内をカイユさんは見て周り、最後にお庭側の硝子戸に内側から鍵を閉めた。
彼等に15分程遅れて現れたヒンデリンさんは、ちゃんと廊下側の扉から入ってきた。
ヒンデリンさんはカイユさんに、セレスティスさんからだと鋳物の鍋を届けてくれた。
彼女はハクちゃんを抱っこして居間のソファーに座っていた私に会釈して、カイユさんに鍋を手渡して足早に帰っていった。

あれからずっと厳しい表情をしていたカイユさんだったけど、受け取ったお鍋の中を確認したらお顔のこわばりが和らいだ。

「これは……父特製のトマトソースです。何年振りかしら?」

冬の空のような水色の瞳に、春の日差しのような柔らかな光。

「セレスティスさんの?」

鍋を持ちキッチンへ向かうカイユさんのあとを、ハクちゃんをソファーに下ろしてから追った。
横に並んでカイユさんの顔を見上げて、その穏やかな表情に内心ほっとしつつ訊いてみた。

「ひさしぶりなの? 何年振りって、どれくらい?」
「……母が亡くなってから。三人で暮らしていた時は、月に数回は作ってくれてたんです」
「あ……私、ごめんなさいっ」
「トリィ様」

鍋をこん炉に置いてから、カイユさんは長身をかがめて私の頬を両手で包み込むようにして撫でてくれた。

「今度、父にこのトマトソースの作り方を一緒に習いませんか?」
「え?」 
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