四竜帝の大陸【青の大陸編】
客人専用の第二医務室で、顔色が冴えないセイフォンの皇太子を拾い……伴って、俺は陛下の執務室へ向かっていた。

「……ダルフェ殿、私は……」

うわ、陰気臭っ!
そう思っても、許されるだろう。
憂いを帯びた端整な顔に胸がキュンッなんてしたら、俺は寿命が来る前にそんな自分に絶望しショック死する。

「あのね、俺に何か言う必要はないでしょう? 俺はあんたの部下でも友でもない、知り合い以下の間柄だ」

黙って後ろを歩いていたダルド殿下からかけられた言葉に足を止め、振り返ってその陰気臭い顔を見下ろしながら言った。
竜族である俺の方が、当然ながら背が高い。
皇太子がちびなんじゃなく、人間としては普通なんだが……この身長差では、どうしても見下ろす形になってしまう。

「俺にはあんたを救うことも、その重荷から開放することも出来ない」

俺を瞬きもせず見つめていた青い瞳が、ゆっくりとふせられた。

「……申し訳ない」

その端整な顔に、影が増す。
この王子様は、王族のくせに素直な所がなんともむず痒いっつーか……俺としては、ちょっと苦手だな。

「いや、謝る必要もねぇし」

俺が着たら地味としか言えないだろう落ち着いた色のチュニックも、この坊ちゃんが着ていると地味ということはなく、逆にその生まれ育ちの良さを強く感じさせた。

この皇太子君は。
『王子様』としちゃ、なかなかなんだが……将来王となる皇太子としては、どうなんだろうか?
まぁ、俺には関係ねぇけどね。

「殿下、あんたは神にでも祈ればいいさ。神に祈る……人間はそれが得意だろう?」

俺達竜族は、神には祈らない。
祈るのは……。

「だけどね、殿下」

見下ろす俺の目には。
握られた拳が見えた。
甲に骨が浮かぶほど強く握られたそれは、予想に反して震えてはいなかった。

「あんたを救うのは、あんた自身しかいないと俺は思うぜ?」

震えを許さぬその矜持が、憐れだと思った。

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