四竜帝の大陸【青の大陸編】
「トリィ様。私とジリはこの先にある店で、父の好きな茶葉を買ってきます。此処でカイユを待っていて下さい」
「はい、カイユ」

席を立ったカイユさんはアイボリーのショールをはおり、ジリ君を右肩に乗せた。
ジリ君はカイユさんの肩で上半身を起こし、お店の奥にある作業場に品物を取りに行ったスキッテルさんに向かって小さな両手をぶんぶんと振る。

「テルぢいぃ~! ジリ、ちゃっちゃ!」

その手には、銀色のコインが一枚。

「お使い頼むな、ジリ坊!」

作業場とお店を仕切っているガラスの向こうで、スキッテルさんも手を振り返していた。
カイユさんは鋳物のドアに手を添えながら、念を押すように言った。

「いいですか? 絶対ですよ!?」

私にではなく。
ハクちゃんに。

「此処で、待っていてくださいね。いいですか、ヴェルヴァイド様! 転移で先に帰るのは無しです。スキッテルの店の後、四花亭にトリィ様をお連れするのですから……聞いてますか!?」

前に街に来た時、ハクちゃんは途中で飽きたのか私をひょいっと抱いたかと思ったら、いきなり転移して南棟に帰ってしまったのだ。
そして残されたカイユさん、ダルフェさん、ジリ君は大迷惑を被ったという前科があるので、カイユさんが語気を強めるのも無理ないと思うのですが……。

言われてる当人は全く気にする様子が無いどころか、その魔王様系好感度ゼロのお顔は明後日の方角を向いていた。

「……網。細かな根、無数の糸。這い、伸びて広がる」

色素の薄い唇から、音。

「ヴェルヴァイド様?」

カイユさんの眉が寄った。

「ハクちゃん?」
 
私がスキッテルさんとカイユさん、そしてジリ君のやり取りを見ている間、私の向かいのソファーにふんぞり返って嫌味なほど長い足を組んで無言で座っていたハクちゃんが言葉を発した。
ここへ来てから、初めて彼が喋った言葉は私には意味不明だった。
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