四竜帝の大陸【青の大陸編】
---ハク、ハク!!

ハクは名前を呼べば、いつだってすぐ来てくれた。
だから、安心していた。
この世界で、私が独りになることは無いのだと。
ハクがいてくれるから、ハクがいるから。

ヴェルヴァイドは、<監視者>は。
この世界の人の畏怖の対象。
彼の報復行動を怖れ、私を肉体的に傷つける人などいない、できないのだと……。

安心していた。
慢心していた。

「そんなに口開けたって、無理だよ。輪止してるから、声が出るはずねぇし。へぇ~、竜族も泣けるんだな、はははっ! 大蜥蜴のクセに、人間様みたいに泣いてやがるぜっ」
地面へと押し付けられた手に、弧を描く刃が近づく。
それは私の手の甲に……。

---う、うそ! や……やめてっ、やめてっ……やめてぇえええ!!

目の前起こっていることを現実だと思いたくなくて、ぎゅっと目を瞑った。
さっき見てしまった銀の刃と、肌に触れる切っ先の感触から逃げ出すように、白い姿へと頭の中で必死に手を伸ばす。
怖いという言葉も、助けを求める言葉を思う余裕も無く。

---ハクちゃっ……ハク、ハクッ、ハクッ!!

頭の中にはあの人の名だけ、あの人だけ。 
閉じた目蓋に浮かぶあの人は、小さな身体を丸めて泣いていた。


< 769 / 807 >

この作品をシェア

pagetop