四竜帝の大陸【青の大陸編】
ゆっくりと。
ゆっくりと、彼は歩いていた。

あれから一言も話さず、私を脇に抱きかかえたまま歩いていた。
静かだった。

革のサンダルが地面を踏んで進む音と、乾いた風が駆けぬける音。
その静けさが、私に考える冷静さを与えてくれた。
2人から1人になったけれど、私の胴に回されたこの手を振りほどいて逃げるのは無理だと感じていた。
1人でも逃がさない自信があるから、だからこの術士の人は背の高い人を先に行かせた。

それに、もし逃げられたとしても。
見える範囲に建物も町も……誰もいない、人工物が何も無い。
誰かに助けを求めることも、これでは出来ない。
太陽がなければ東西南北すら分からない私じゃ、陽が完全に落ちたら……ここで逃げられても遭難するに決まっている。

競りにって言ってたから、殺される可能性は低い……よね? 
竜族だと思われている私は、人間より『お金』になるらしい。
彼等にとって生かしておく『価値』がある。
逃げ出す機会が、きっと……絶対にある。
ハクだって、私を探してくれてるに決まってるもの!
カイユさんだってダルフェさんだって、ジリ君や竜帝さんだって……。
 
――大丈夫! とにかく機会を見つけて逃げて……この大陸の竜族の人を探して赤の竜帝さんに連絡をとってもらえれば、ハクに私の居場所が伝わるもの。場所さえ分かれば、ハクがすぐに迎えに来てくれる!

術士であるこの人から逃げられるか……それに、人間より個体数が少ない竜族に会える確率は、私が考えているより低いのかもしれない。
  
でも、それでも。
大丈夫だと強く、強く思わなければ。
二度と立ち上がれなくなりそうだった。
 
やがて空の色がオレンジの混じった淡いピンク色に変わり始め、此処へ来てからそれだけの時間が経ったことを私に教えてくれた。

「……以前の私なら。この先にある野営地まで転移可能な術士だった」

低くなってきた太陽に向かって歩きながら、ずっと黙って歩いていた彼が口を開いた。 
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