四竜帝の大陸【青の大陸編】
「ふむ……おっさん、か。まぁ、あれが我をどう呼ぶかなど、どうでもよいのだ」

<赤>が我に用意したのは詰襟の長衣は、ブランジェーヌが幼い頃より好んでいる緋色で、袖口と合わせ目が金糸で縁取られていた。
赤の竜騎士達が身に着けているもの同様の、血生臭い“汚れ仕事”に適した蜥蜴蝶を素材に使用したものだった。
我がりこをこの手にとり戻すまで、周囲を壊し傷つけ……殺しながら進むのだと、<赤>は考えたのだろう。

そうだ。
我は進む。
自らの足で歩み、先へ先へと進む。
進む我を阻むモノがあれば壊し、邪魔をする者は殺す。

壊し、殺すのはとても簡単だ。
だが……。

「……」

踵が磨きこまれた床石を踏み、硬質な音をたてた。
すれ違う竜族達は我とは違い、この帝都の気候に合った涼しげな薄手の服に、革のサンダルを履いているので柔らかな足音だった。

城勤めの竜族の目玉が、通り過ぎる我を追って動く。
歩みを止めぬ我に、声をかける者は無い。

我は他者の視線など気にはならぬし、どうでもいい。
それが好意的であろうが、嫌悪のものであろうが構わない。

「……」

以前は身に着けたモノが似合うかどうかなど、考えたことはなかったが。
今の我は、思うのだ。

この服を我は、可愛いだろうか?
りこが見たら、気に入ってくれるだろうか?

他の者はどうでも良いが。
りこがどう思うかは、気になる。

「…………黄色いアレのほうが良いか?」

その問いに。
答える者は、ここにはいない。

「……」

『目的』はあるが、行く当てが無い我は。
ただ、歩き続けた。
 

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