四竜帝の大陸【青の大陸編】
『陛下。やっぱり<魔女>の【記憶】は陛下でも消せないんですか?』

俺は<常世の魔女>を指差し、陛下に尋ねた。
魔女閣下は、笑った。
自嘲のそれは、どこか悲しげだった。

『くくっ。竜帝でも私の【記憶】は消せませんものね』
『お前の【記憶】は【記録】だからな。すまんが俺様にも無理だ』

陛下は魔女閣下の髪を撫でる。
その優しい仕草。

『辛いなら、言うが良い。死を望むがいい。俺がお前にしてやれるのはそれだけだ』
『……逃げるのは性に合いませんわ』

強く美しく、悲しい女だ。

『そうか。……今回の件、後始末を頼む。消したのは先ほどの騒ぎの記憶だけだ。ヴェルのつがいの後見人にはセイフォン皇太子ダルドを。<竜帝>が認める。ダルド一代限りのものであり、次代への引継ぎは無し。各国への告知は帝都が行う。異論は認めん』
        
王子は20歳。
つまり数十年はこの国は安泰ってことだな。

ま、セイフォンが栄えようと滅びようと俺はどうでもいいんだが。
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