最後の恋、最高の恋。


大学の入学式。

買ったばかりのスーツは、サイズはぴったりなはずなのに窮屈に思えてくるくらい緊張していた。

一緒についてこようか? と言ってくれた母親の言葉を素直に受け入れておけばよかったかもしれない。


今更後悔するけれど、その場に妹の美月がいたものだから大人ぶって、平気よ、なんて言ってしまったものを今更取り消すことができるわけもないなんて分かっているから深呼吸をひとつして心を落ち着かせる。


美月は、何故か私を完璧な人として見てくるけれど、実際はそうじゃない。
だから美月の自慢であるお姉ちゃんであるために、そう思ってもらえるようにばれないように努力をしていたりするんだけど、やっぱりこういうふうに一人でいたりするとその仮面は外れかけてしまう。


でもその日頃の努力のかいあって、第一志望の、しかも誰でも知っているような有名大学に入学できたわけなんだけど、やっぱり知ってる人が誰もいないこの状況はとても居心地が悪い。

式が終わってぞろぞろとたくさんの人が溢れかえる大学構内。

サークルの勧誘やなにやらで囲まれてしまって、身動きが取れない状況だ。

でも、ここで焦っておろおろしてたんじゃこの状況から抜け出せないと、「これお姉ちゃんに似合う!」と言ってくれたこのスーツが私を守ってくれているように思えて、胸もとをぎゅっと握りしめながら、ふんわりと微笑みを浮かべた。

< 228 / 337 >

この作品をシェア

pagetop