犬と猫…ときどき、君

泣いていたのは、私。

だけど――……。


「城戸?」

「……ん?」

「どうしてそんな顔するの? どうしてそんな……泣きそうな顔してるの?」


本当に、無意識だった。

無意識に伸ばした手が、城戸の頬にそっと触れた。


「……っ」

「城戸?」

揺れる瞳を大きく見開いた城戸は、私のかけた声に、ゆっくりと瞳を閉じて、フーっと息を吐き出す。


「悪い」

「え?」

「――忘れて」

そんな言葉をポツリと落とした城戸は、ゆっくりと私を腕の中から開放すると、頭をそっと撫でて、静かに医局から出て行った。


目の前で、“バタン”という音を立てながら閉まったドア。

それと同時に、視界から消えた城戸の背中。


城戸。

お願いだから、思い出させないで。


「もう……ヤダ……っ」


あなたとの幸せな時間を、どうか思い出させないで。


だってね、それを思い出してしまうと――。

「痛いよ」

押さえ付けた私の胸は、こんなにも痛んでしまうんだ。

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