犬と猫…ときどき、君
「あのクソみてーなサイト、潰したから」
あのあと仲野と少し話しをした俺は、研究室を出ると、すぐに松元サンに電話をかた。
社会人になってから一人暮らしを始めらしいマンションに向かい、嬉しそうにニコニコ笑って、俺を部屋に招き入れようとしたソイツに、玄関先でその事実を告げた。
サイトの事も、仲野の事も。
まぁ、これでこの女が引かない事なんて、わかり切ってたけどな。
「取りあえず、中に入って下さいよ」
一瞬その表情を歪めた松元サンが、まるで何事もなかったかのように笑うその顔を見ると、本当に図太い女だと思う。
「ここでいい」
「でもー」
「俺がイラついてんの、わかんない?」
「え……?」
「本当だったら、アンタと話もしたくないんだけど」
「……」
「サイトも潰せたしさ、松元サンと付き合う理由、もうないんだよね」
ゆっくりと口にしたその言葉。
――もう少しくらい、動揺するかと思ったんだけどなぁ。
目の前の松元サンの、まるで勝ち誇ったような顔に、思わず笑ってしまった。
「何がおかしいんですか?」
「いやー? 松元サンが、随分嬉しそう笑ってるから」
「……」
「わかってるよ。卑怯なアンタが考える事くらい」
「え?」
「どうせあるんだろ? “あの書類”のコピーか何か」
「……何だぁ。気付いてたんですね」
小さく笑いながらそう口にした彼女は、一旦部屋に戻ると、俺の前に一枚の紙切れを差し出した。
ホント、シタタカな女。
「知ってるなら、わざわざこんなの用意しておかなくても良かったですね!」
何が楽しいのか、俺には全くわかんねぇんだけど。
「なぁ、一個聞いていい?」
「はい」
「どうしてそこまでするんだ?」
その目を真っ直ぐ見据え、静かに尋ねてみる。