犬と猫…ときどき、君

「だから、知らねぇよ」

「“知らねぇ”って、どういう意味?」


――私を拒絶していると思った、その言葉。


「だから、旅行なんて行く予定ないから」

「沖縄……行かないの?」


私のその言葉に、なぜか城戸は少し辛そうに笑って――

「行けねぇよ」

ポツリと、そんな言葉を落とした。


城戸。

お願いだから、やめてよ。

泣きそうになる。


その言葉の意味を、私はどう取ったらいいの?

この私の気持ちは、きっと“自意識過剰”ってやつで……。


そうじゃないと、いけない。

だって城戸には、松元さんがいて。


もうやだよ。

意味が分からない。


城戸があまりにも優しいから、だからこんなに胸が痛くて、苦しいんだ。


真っ直ぐ私を見つめるその瞳は、あの頃のまま。

もう私を映してなんかいないはずなのに、城戸のその瞳は、本当に嫌になるくらい、真っ直ぐで綺麗。


「やる事ないから、ホントは病院行こうと思ってた。……お前、怒るだろうけど」

優しく笑う城戸の、ゆっくり伸ばした手が触れたのは、私の髪。


「……っ」

たったそれだけで、こんなに動揺する私がおかしいのかな?


その城戸の指先が、ゆっくりと下にさがっていって、そっと私の首元に触れる。


「胡桃……」

“だめだよ”――そう言葉にしたいのに、体が上手く動かない。


口も、体も動かないのは、きっと城戸の心地のいい体温のせいだ。


本当に嫌になる。

どうして私の体は、こんなにも城戸とピッタリ合ってしまうんだろう。

ただ苦しいだけなのに……どうして。


「城戸」

「……」

「やめよう?」

だってこんなの、間違えてる。

「こんな事、しちゃダメだよ」

城戸には、松元さんがいる。


「もう、やめて」

あんな思いをするも、させるのも……もうたくさん。

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