犬と猫…ときどき、君

「……で?」

「え?」

「その後、城戸のヤロウは?」

「“ヤロウ”って……」

「いいから教えなさいよ!! その後、城戸はどうしたのよ!!」


身を乗り出して、机に付いた拳を震わせながら鼻息を荒くするマコに、私は顔を顰める。


「“そうだよな”って」

「はぁ!?」


あの夜、あの丘の上で、その綺麗な瞳を曇らせながら、何故か無理をしたように笑った城戸は……。

「そろそろ帰る」と言った私からスッと離れると、少し離れた所に停めておいたらしい車に私を乗せて、家まで送ってくれた。


「何か私、分かんなくなってきちゃった」

「……何が?」

「色々。自分の気持ちも、城戸が何考えてるかも」

「胡桃の気持ちは……自分で考えてね」

棒読みでそう言ったマコに、私は唇を尖らせる。


「城戸の気持ちは、考えるとムカつくから考えたくない」

「えー? 何それー……」

大体にして、マコの言う事は分かりにくいんだよ。

この前だって、私と城戸は同じ気持ちだーとか。

言っている意味が分からない。


「てゆーかさぁ」

「ん?」

「城戸、今日来てないじゃん」

「うん。“ちょっと頭冷やす”って言ってた」

「おーおー、冷やせ冷やせー!!」

「ちょっと、マコー」


フンっと横を向いて、そんな暴言紛《まが》いな言葉を吐いたマコだったけど……。


「城戸って、本当にまだあの女と付き合ってるのかなー?」

顰めたままの顔で、宙を見つめながら、そんな言葉を呟く。


「付き合ってるんでしょ?」

「私に聞かないでよ」

「……」

「……」

まるで睨み合うように、無言になった私達。


「まぁ、いずれにしても私は城戸なんて認めないけどね。胡桃を傷付けた事に、変わりはないもん」

「マコ、それはもういいから」

「よくないっ!! よくないよ!! あの頃の胡桃がどれだけ苦しんでたか、私はずっと見てたんだから!!」

「マコ」

「何よ!?」

「でもね、私は城戸に感謝してる」

「……」

「前の病院の時は本当に辛くて、毎日獣医を辞めようと思ってた。でも、今は凄く楽しい。だから、ここに連れて来てくれた城戸には本当に感謝してるんだよ?」

「それは、分かってる。私だって、そこだけは感謝してるもん」


それっきり口を開く事もなく、マコは下を向いて黙々とお弁当を食べ続けた。


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