犬と猫…ときどき、君

「芹沢先生! こっち」

「あぁっ! 遅くなってごめんね! 診療長引いちゃって……」

「別に平気だよ。同じ仕事してんだから、状況は嫌という程わかる」


笑いながらそう言った今野先生と、こうして二人で会うのはもう三回目。


三人でご飯を食べた次の日、セミナーの会場で会った今野先生は、

「ごめん。やっぱり連絡先聞いていい? カッコつけて、芹沢先生からの連絡待つつもりだったんだけど」

そう言って、恥ずかしそうに頭を掻きながら、自分の携帯を私の前に差し出した。


その素直さに、つい笑ってしまった私は、もう少しだけこの人のことを知りたいって思った。


「今日は何にしよう?」

「んー……何がいいかな?」

「うちのアニテクがこないだ合コンで使ったイタリアンの店、結構良かったらしいけど」

「あははっ! じゃー、そこにしよっか!」

「全滅だったらしいから、縁起悪いかもしれないけど」

「……」

「冗談。行こう!」


まるで私の反応を楽しむかのように、クスクスといたずらっ子のように笑った今野先生。


「からかってるんでしょう?」

「半分はね。残り半分は、駆け引きをしながらのアプローチだな」

「それって、言っちゃったら駆け引きにならないんじゃない?」

「そっか。うっかりだな」


そう言いながらも、メガネの奥の瞳を細めて笑う彼の様子を見る限り、全然“うっかり”だなんて、思っている感じはない。


「ホント、適当だよね」

「適当じゃねぇよ」

私の言葉に反応して、また楽しそうに笑うから、つられるように、私もついつい笑ってしまう。


まだ数回しか会った事のない今野先生に対して、こんなにも普通に接する事が出来る自分に凄く驚いた。


もしかして、城戸に似ているからなのかなって……最初はそう思っていた。

でも、当たり前だけど、今野先生と城戸は違う。


どちらかというと、遠回しな愛情表現をする城戸と、ストレートにそれを言葉で表現する今野先生。

きっと、根底は似ているのだと思うけれど、そこに関しては本当に真逆なんだ。


たけど、そんな今野先生も、今のこの関係に関しては特に何も言ってこない。


今何かを言われても正直困るし、まだ逢って間もないから、今野先生だってそこをつき詰めるつもりはないのかもしれないけど。


「じゃー、行きますか」

「うん」

ゆっくりと歩き出した今野先生を追いかけ、その隣に並ぶ。

智也と別れてから、城戸と聡君以外の男の人と並んでこんな風に歩くのは初めてで、ほんの少し違和感を覚えてしまう。


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