犬と猫…ときどき、君


「それで、もしも城戸が勝手に結論出さなかったら、胡桃はどっちを選んでたの?」

ホットミルクの入ったマグカップを両手で握りしめる私の正面には、パジャマ代わりのスウェットを着て、髪をゴーゴーとドライヤーで乾かすマコが座っている


音がうるさくて、正直あまり会話にならない。


「だいたいさ、ビックリするじゃん!!」

そんな私の気持ちに気付いてか、カチッとドライヤーを切って、少し睨むような視線を投げてよこす。


「……ごめん」

「いきなり泣きながら電話かけてきてさぁ!!」

「だから、ごめん」

「どんだけ心配したと思ってんの!?」

「ごめんなさいー!!」

「逆ギレ!?」

「……」


不貞腐れながら口を尖らせる私の頬を、ギューっと横に伸ばしたマコは、フンっと鼻を鳴らした後、話題を元に戻した。


「で? どっち選んでたわけ?」

「そんなの……選べないよ」

そう答えた私に、盛大な溜め息を浴びせたマコが、呆れたように口を開く。


「何で!? てゆーかアンタ、もう選んでんじゃん!! この開いていない箱と、その手に握ってるムダに高級そうなストラップは何!?」

「これは……っ!!」

「“これは”、何よっ!?」

「違くて……」


マコの言う通り、よくよく見たら、何だか高価そうだったそのストラップを手に握りながら、私は微かな抵抗を見せてみる。

だけどそんなの、マコに通じるはずもなくて。


「いい加減観念しなさいっ!! もう、これが証拠でしょう!? これ、開いてないじゃん!!」

そう言ってまだ開けられていない、今野先生に貰った箱を指さした。


「それは、城戸がワケ分かんないことすから、ビックリして開けちゃっただけで」


モゴモト言い訳を口にする私に追い打ちをかけたいのか。

マコはさっきよりも更に大きな溜め息を吐いたあと、

「あんたさっき、電話で城戸の事“春希”って呼んでたよ」

そんな、驚くべき事を口にする。


「はっ!? 呼んでないよ!!」

「呼んでましたぁー!!」

「呼んでない!!」

「もぉー!! 強情娘っ!!」


“キィーー!!”なんて奇声を発しながら、せっかく乾かした頭をワシャワシャと掻き回すマコの様子を見ると、彼女の言っている事は本当なのかもしれない。


「……」

“春希”――そう呼んだの?

事実だとしたら、無意識にしたって、その名前を口にしたのはどうしてだろう?

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