犬と猫…ときどき、君


ここは小さな町の、小さなイヌネコ動物病院。

気の合う仲間ばかりが集まったこの病院のメンバーは、獣医師の私とアニテクのマコ、サチちゃん、ミカちゃん、コトノちゃん。


いつも騒がしい女所帯の中に――

「おはよー」

男がたったの、一人だけ。


「あぁっ! ハルキ先生!! 聞いて下さいよっ!!」

「おー……君らは朝っぱらから、ホントに元気だね」

呆れたようにそんな言葉を口にするのは、もう一人の獣医師、城戸 春希《きど はるき》。


「元気とかじゃなくてっ!!」

「はいはい、何事ですかー?」

「胡桃先生、彼氏と別れちゃったんですよっ!!」

「……へぇー」


鼻息荒くそう口にしたサチちゃんから、私にゆっくりと視線を移した城戸は、

「何でまた?」

ちょっと首を傾げながら、そんな言葉を落とした。


「やっぱりそう思いますよねっ!?」

「なのに、胡桃先生“色々とー”とか言って、教えてくれないんですよ!?」


言葉につまった私なんか置いてきぼりで、再び激しく不満を口にするアニテク達に、少しキツめに檄を飛ばすのは日常茶飯事。


「はいはい、もうその話はお終い! ミーティングします!」

「はぁーい」

ちょっと不満げに、だけどよい子のお返事をする彼女たち。

その様子に溜め息交じりで笑顔を向けると、私はカルテを捲り出す。


「じゃー、入院の子達の報告をお願いします」

「はいー。えぇっと、去勢の関口ウィリーちゃん。傷口若干赤いです。排便、排尿プラスで……」

私と同様に、腕に抱えたカルテに視線を落として入院患畜の状態を報告する城戸の言葉をぼんやりと聞きながら、私は今朝のことを思い出していた。


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