犬と猫…ときどき、君


春希とは、何も変わらない。

恋人同士に戻ったワケでもないし、前よりもメールや電話の回数が増えたワケでもない。

やっぱり“仲のいい同僚”という言葉がしっくりくるこの関係は、ちょっと複雑で……。

「マコが言いたいことはわかるんだけどさ。きっともう一回失敗したら……」

春希も私も、きっと考えてしまう。

「私と春希はもう戻れないと思うから」

お互いを傷付け合わずに済む、一番いい方法を探してしまう。


たくさんの人を巻き込んで、傷付けて、それでも消えなかったこの恋は、すごく強いはずなのに、すごく脆(もろ)い。

だから春希との距離を縮めていくことに、臆病になってしまうんだ。

「自分でも、何とかしないととは思ってるんだけどね」

笑いながらお箸を口に運ぶ私に、マコは困ったように眉を寄せる。


春希は今、どんな気持ちでいるんだろう?

“同僚”としてじゃなく、“恋人”として、私を求めてくれているのかな?

私のことを、昔よりも好きだって、そう思ってくれる日はくるのかな――……。

「何かいいきっかけとか、燃え上がるような事件があるといいんだけどねぇ」

“燃え上がる”ってなによ……。

「え? なに?」

「いや、篠崎君と変な裏工作とかしないでね?」

「はぁ!? そんなことするワケないでしょ!!」

「あははっ! 冗談だってば!」

悩みが尽きることはないけれど、それでもここはとても平和で、やっぱり幸せな場所。

そんな場所で、“きっかけ”はまだしも、マコが言う“事件”なんて、そう簡単に起こるものではないと思っていた。

だけどそれは、ちょっとずつ、ちょっとずつ、私の知らないところで動き始めていたんだ。



< 631 / 651 >

この作品をシェア

pagetop