貴方に愛を捧げましょう


「由羅……」

「待って、待って……葉玖」


あたしの腕を引いて迫ってくる彼の胸を押し返して 抗うけど、そんなものはなんの抵抗の足しにもならないらしく。

挙げ句の果てには笑みまで浮かべてみせた彼は、後ろに逃げの姿勢をとるあたしの腰を引き寄せて言った。


「その願いは聞きかねます、余りに待たされてしまうと…──」


そこまで言いかけて、あたしの制止もお構い無しに唇を塞いだ葉玖は、意外にもすぐに離れると熱っぽく囁いた。


「箍が……外れてしまう」


そして言葉通り、今度は噛み付くようにキスを仕掛けてきて。

けれど舌の動きは優しく、擽るようなそれに堪らず息が上がってしまう。


「──っ、はぁ…っ、やめ…──んむ……っ」


息苦しくて堪らずしがみつくと、何故か首の後ろと膝裏に手をまわした彼はあたしを抱き上げると、廊下へ向かった。

その間もキスは続行され、言えない文句が溜まっていく。


「はっ、ぅ……っ」

「っ、ん……、由羅…っ」


どうやら、あたしを抱き上げたまま階段を上がっているらしい彼に艶めいた声で名を囁かれて、頭の芯が痺れるような感覚に陥らされる。

本気で箍が外れたようにあたしの唇と舌を貪る葉玖は、まるで空気を求める魚の如く必死に呼吸しようとするあたしの唇を、喋らせる余地など与えず言葉を挟ませないよう絶妙のタイミングで、時折離れてはキスを繰り返す。


「申し訳ございません……。手遅れだった……ようで す」


不意に階段の途中で熱っぽくそう言われたけど、全く反省の意志が見られない当の本人は、あたしの首筋に顔を埋めて少し濡れた唇で肌に吸い付く。

思わずびくりと身体を跳ねさせた自分が嫌で、反射的に溜まっていた文句を彼にぶつけた。


「分かってるなら……しっかり、留めておいて…っ。病み上がりなんだから……っ」


肩で息をしながら潤んだ目で言うも、これじゃあ説得力も何もない。

その証拠に、目の前の美しい相貌には笑みが浮かんでいて。

そこで再び魅惑的な唇を寄せられた──次の瞬間。

ガタンッ! と誰もいないはずの一階から何かがぶつかるような物音がした。

それより一瞬早く何かに気付いたらしい葉玖は、ただの人間では目がまわるような早さで二階にある窓の縁にあたしをそっと座らせると、こちらに背を向けて立ちはだかった。

すると目の前には、窓から射し込む太陽光に煌めく、銀の髪。


「葉玖よ。我の気配に気付かぬ程に愛しい者とは、そのおなごか?」

「……」


……誰?


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