芸術家からの些細な贈物
画家が人間のためにできること
『画家である僕が人間にできることは、人間が見ることのできない抽象的な世界の部分を視覚情報に描いてやることだと思うのです』





死という白が、画家の目前に展開している。白はただそれに絶対的な沈黙をもってして画家を見下し、死は美しくゆったりとながらかに静かに、画家の足元を埋めていく。しかしながら、画家は一切の焦燥なく筆をとる。筆を握ることは画家の仕事であり、断罪のための指揮棒でもあるのだ。画家は絵の具を指揮して筆を振らなければならず、筆は画家のために絵の具の頂点にあらねばならない。筆は、画家がチューブから取り出した絵の具たちを混ぜ合わせる。それは、画家が今まで目にしてきた生という赤である。記憶する全ての異なる赤を混ぜて混ぜて混ぜ合わせ、画家は多数の生を一色の純粋な赤とする。筆は画家の生を受け止め、生命を吸い、頭上に沈黙せし白を喰らう。乱暴に乱暴に。乱暴でいいのだ。生とはひどく乱暴だ。生は人を生かす。何の躊躇いも拒否も拒絶もなく、人間を生する。生は人を呑みこむ。死をかりそめにするために、生は静止を知らない。人々は止まらない。ぬるぬるぬるぬる――――塗って塗りたくる。白を死を忘れるために。塗りたくる。塗って塗って、死の罪を赤く赤く赤く断つ。しかし、画家はその赤が、生が、かりそめであることを知っている。死は白は、美しくゆったりとなだらかに静かに、赤から生から隙間をつついてやってくるのだ。だから画家は、生が赤が展開されていく目前に、細い細い筆で、一輪の花を育てる。美しくてゆったりとしたながらかで静かな、その白を死を。
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