ロ包 ロ孝 2
「ええっ? このグラコロの中には、そんな物まで有るのかっ?」

 ジェイはその大きな目を見開いて驚き、誰へともなく呟いた。

「そりゃ一般市民が羨むよなぁ……」

 コロニー内だけで生活や娯楽が出来る様に計算され尽くし、設計されたここは、ひとつの都市さながらの機能が全て凝縮されているのだ。

「だから順子、ジェイの知り合いは1人も居ないのよ? 周りの目を気にしないで、思いっきり女の子達なれますよぉ」

 赤い髪を指に巻き付けながら、ジェイはその表情を明るくしてカンを窺っている。

「エッ、そうなのか? いや、でもそんな事……」

 しかしこの何年間かを男として生きてきたジェイは、いきなりそんな機会を与えられ、戸惑いを隠せないでいた。

自分は一生ティーを支えて生きていこうと決めていたし、ティーの所に身を寄せた時点で女性としての幸せは放棄したつもりだったのだから。

でもカンや陳老人が折角良くしてくれるのだから、思いきってその厚意に甘えてしまおうと思い始めている。

 そのやり取りを微笑まし気に見つめていたダレブは、2人に気付かれないようにそっと席を外した。


───────


 飾り物を楽しそうに取っ替えひっかえしながら、ジェイ達はキャッキャとはしゃいでいる。

「失礼しますよ? おお、これは!」

 ダレブを伴ってやって来た陳老人は、ジェイの変わりように驚いていた。

「いや、素敵ですよ。順子さん! 見違えてしまいました」

 老眼鏡を掛けた彼を見返したジェイは、やっと陳老人の瞳を見る事が出来た。
今までは皺に隠れて良く解らなかったのである。

「ああ、お爺さん。でもこんなにして頂いて本当によろしいんですか?」

「はっはっはっ、順子さんには返しきれない程のご恩が有ります。まだまだ足りないですよ」

 カンは陳老人に抱き付いて、嵐のようにキスを浴びせて言った。

「爺ちゃんありがと! さぁ順子、楽しまにゃアカんで!」

 カンの言葉に頷きながら陳老人は言う。

「そう、ここでは榊順子さんとして存分に羽根を伸ばして下さい」

 ジェイは深々と頭を下げ、彼らの好意に甘える事にした。


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