ロ包 ロ孝 2
「ははっ! 美味しいね、カン」

「でも私には甘過ぎるで、コレ」

 散々ショッピングを楽しんだ後、ジェイとカンはドーナツに舌鼓を打っていた。陳老人の所に世話になって、今日ではや3日目になる。

「そんなこってりクリームのヤツを選ぶからでしょっ?」

 とジェイ。

カンが「この格好に男みたいな喋り方はおかしい」と散々言った為に、最初は嫌々使っていた女の子言葉だったが、いつしか自然と口を突いて出るようになっていた。

「順子が先にオールドファッション取っちまうからざんしょ?」

「また変な日本語使って! カンはお爺ちゃんから日本語習った方がいいと思うわよ?」

 半分かじったドーナツをくわえながら、カンは驚いて言った。

「ええっ? ダレブの日本語完璧でんがな。爺ちゃんの日本語昔のでしょう!」

 どうやらカンは陳老人の日本語力を見くびっているらしい。ダレブこそが日本語の達人だと信じて疑わない。

ジェイはそれを否定するでもなくカンに微笑みを向けている。

「あぁぁっ、それにしても女の子って楽しいものだったねっ。十分満喫させて貰ったわ?」

 突然ジェイは立ち上がり、思い切り背伸びをするとそう言った。

「え? ちょと順子。いきなりどした?」

 慌てふためいてロイヤルミルクティーを服にこぼすカン。

「あらあら、ダレブが怒るわよ? 私ね、もう戻らなきゃいけないの。
 それで……お爺さんにご挨拶させて欲しいのよ」

 微笑みながら言うジェイの瞳にはしかし、うむを言わせない真剣さが有る。

カンはその威圧感に気圧されて、反対する事が出来ないでいた。

「わ、解った。でも爺ちゃんもきっと『もう少しごゆるりとなさるが良かたい』ち言わっしゃるばい」

「うん、でもみんなの事が心配なのよ。カンとお爺さんが家族なように、ボスも仲間のみんなも私に取っては家族だから」


───────


 無人タクシーに乗って陳老人の家に着いた2人。カンは消沈していて口数も疎らだ。

「本当に行っちまうか……」


< 144 / 258 >

この作品をシェア

pagetop