ロ包 ロ孝 2
「ん……むむ」

 ボスは眉根を寄せ、歯をくいしばる。ブルブルと全身を震わせて、顔はゆでダコみたいに真っ赤だ。

  メリッ メリメリメリッ

 すると、みるみる内に周りの肉が隆起して傷口からの出血が止まった。

「むんっ!」

 そしてまた気合いを込めると張り詰めていた皮膚に弾力が戻って、とうとう跡形もなく塞がってしまったのだ。

目を輝かせて見ていたジェイは、ため息混じりに言った。

「はぁぁ、何度見ても凄いなぁ……俺も欲しいですよ。その能力」

  パチン! ドサッ

 ジェイは突然横っ面を張り飛ばされ、砂の地面に突っ伏していた。

「っ! すいませんでした、ボス。もう言わないって約束したのに……」

 ジェイは急に抱き寄せられ、その赤み掛かった髪を揉みくちゃにされている。

「………、……」

「ううん。俺こそごめんなさいボス。ボスの気持ちも知らないで……」

 普段から屈強なゴロツキ共を取り仕切っている彼女からは考えられない程の涙が、幾筋も頬を伝って砂漠に落ちる。

 それらは砂に染み込む前に宝石のように固まっていた。

「…………」

 ボスは何かを呟きながら彼女の紅潮した頬を優しく指の腹で拭うと、その小さな手を引き上げて立たせてやった。

「………。……?」

「有り難うございます。でも俺はこのままがいいんです。女に戻るつもりなんか、これっぽっちも有りませんから」

「………?」

「ええ、更々!」

 ジェイは、さっき迄涙で頬を濡らしていた事等嘘のように、思いっ切りアカンベーをした。

「……!……!」

 ボスはわざとらしい大きな身振りでジェイに追い縋る。

「こればっかりはボスの言う事でも聞けませんようっ」

 ジェイは小さいマントを翻し、一目散に逃げ出した。

「ハハハッ」

 【北斗】を放ち、楽しそうに空を舞うジェイを、ボスは優しい目で見守っていた。

 ……彼女はどうやってマフィアのNo.2に収まる事が出来たのか、ボスはどうして傷を瞬時に治す能力が有るのか……少し時を戻してみよう。


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