レモンムスク
もっと、自分を変える努力ができたら、こんな私だって想像の私に近づけるのにな…
ふと、本の文字に目を流しながら自分の髪に触れてみた。
目にも鼻にも、唇の形にさえも自信はないけれど、髪の質と肌の質にだけはう唯一自信があった。
小さな頃から、親戚の人や親に、髪の毛と肌だけは、たくさん触れてもらった。
「綺麗な髪だね」
「マシュマロみたいなほっぺたよねェ」
私の肌か髪に触った人は、そう言ってくれる。
その瞬間が、私は読書の時間の次に好きだった。
ただ、友達に言われたことがあるのは、たった一度だけ。
「ぼく、みーちゃんの可愛いほっぺたが大好きだよ」
遠い遠い記憶。
紺色のサロペットを身に着けた、小さな男の子。
そのときだって、私はおさげ頭だったんだろう。
「綺麗な三つ編みも大好きだよ」
あの子は誰なの?
親に聞いても、
「幼馴染なんて、帝にはいないわよ?」
「夢じゃないのか?」
なんて、親らしからぬ答えが返ってくる。
その子の記憶は、
この記憶しかない。
みーちゃんと呼ばれていた友達なんて
ひとりもいない。
これだけは確か。
だって、帝って呼んでくれる友達でさえ、
片手の指で済んでしまうほどの数なんだから。
わたしが生きてきて、
これだけがずっと疑問なの。
ただひとり、わたしを
褒めてくれた大切なお友達がいたんだってこと。
その友達にもう一度会えたなら。
なんて思うけど。
ただの夢かも、って可能性のほうが高い。