トマトときゅうり


「弁当か。俺を呼びに来たんじゃないんだな」

「・・・・きゅ・・でなくて、楠本さん。お疲れ様です。すみません、お邪魔しました」

 即、撤退すべし。私の脳がそう足に告げていた。

 だけど引き返そうとするより早く、腕を捕まれた。

「何で行こうとすんだよ。ここで弁当食うんだろ、食べていけよ」

 ぎょぎょっ!一瞬でその光景を想像した。いやいやいやいやいやいや・・・。

「・・・いいです、食堂で食べますから」

「遠慮すんなって。今食堂一番こんでるぞ」

・・・それもそうだが、きゅうりの前でお弁当なんて食べれっこない。人前で食べること自体結構恥ずかしいのに、なぜきゅうりの前でなんか!!

 呆然とドアを見つめる。

 ああ・・・遠くなってしまった私の楽園。よりによって危険人物と出くわすとは。

 捕まれた腕を恨めしく眺める。

 でもこのままだと、きっと、絶対、確実に、また赤くなってきてしまうんだろう・・・とにかく早く、この腕を解いて貰わねば!!

「判りました、ここで食べますから離してください」

 ため息をついて向き直ると、きゅうりはにっこりと笑った。

 ・・・ああ、この笑顔がムカつく・・・。

 仕方なくいつもの場所に(きゅうりの隣だとは敢えて認識拒否する)座り、弁当の蓋をのろのろと開ける。

「おお~、美味そう!なあ、これ、一つ貰っていい?」


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