トマトときゅうり


「!!!!」

 凝りもせず、赤面症をからかうなんて・・・・!!!

 こっ・・・殺してやりたい。

 早くその無駄に綺麗な顔をどけて~!でないと心臓の音も消えてくれそうにない。

 文字通り真っ赤になって俯く私を助けてくれたのは隣の机を使用中の正社員の事務員、仲間さんだった。

「ちょっと、楠本君。やめてあげなさいよ、可哀想に」

 そうだそうだ、やめて下さい、私が可哀想です!私は救いの女神である仲間さんを振り返る。

 たらんとした甘い声の持ち主である仲間さんは、28歳独身。

 イケメンが好きだと公表し、エリート狙いで保険会社に入ったのだと公言してはばからないが、几帳面な仕事ぶりで、彼女なしではうちの事務所は動かない、と周囲も認めるキャリアウーマンだ。

 仕事が出来すぎて嫁にいけないと、毎年誕生日には必ず言うらしい・・・。

 化粧が素晴らしく上手で、美しいすっぴんに見えるが、実はこの顔を作るのに毎朝45分かかるのだと一度教えてくれた。

 それを知った時は驚愕したものだ。

 ちなみにこの仲間さんは、きゅうり、もとい、楠本孝明28歳独身と同期で、この事務所できゅうりに惹かれない、多分唯一の女性だと思う。

 私だって妙齢の女性、しかも女子大卒で男性に免疫の少ないこともあって、初めてきゅうりを見た時は、ときめきで心拍数が上がって死ぬかと思ったものだった。


< 7 / 231 >

この作品をシェア

pagetop