トマトときゅうり


 小さな小さな言葉は、胸のうちでこぼしたつもりだった。

 ―――――が。

「何が好きだって?」

 きゅうりのハスキーな声がいきなり聞こえてビックリして体を起こした。

「は・・はいっ??」

 思わず隣を見ると、真っ直ぐ前を向いて運転しているきゅうりがいた。

 いきなり現実感が襲ってきて、状況を思い出した。マジで・・・私、一体どこに行ってたのよ~!!

「何かが好きだって言った。何?よく聞こえなかった」

 きゅうりがチラリと私を横目で見て聞く。私は助手席でダラダラと脂汗をかきながら懸命に脳みそをフル活動させた。

 ばかばかばかばかバカだわ、私・・・。がっつり聞こえる声で言ってどうするのよ・・・。よかった~主語をつけてなくて・・・。

「えーっと・・・。すみません、ぼーっとしてて自分が何呟いたか判ってません」

 あははと笑う。自分でも、しらじらしーと思った。絶対ごまかせてない自信があったけど、きゅうりは見逃してくれたらしい。

「お、あそこにファミレスみたいなの発見。入るぞ」

 ・・・ああ、良かった。これ以上問い詰められたら挙動不審になるところだった・・・。私はホッと胸を撫で下ろした。

 空いているパーキングに入って、きゅうりはコートを車の中に置いたまま降りる。そしてううーんと長い体をのばした。

「あー、肩凝った。今日の会場狭かったもんなー」


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