《短編》空を泳ぐ魚
視界一面を支配してるのは、梅雨の明けた真っ青な空。


ところどころにある雲が、ゆっくりと、時間をかけて形を変えてゆく。


それをただこうやって、屋上で寝転がりながら眺めてるだけのあたし。


グラウンドからの生徒たちの声が、BGMの代わりとなって。


素晴らしくこの場所は、あたしの眠気を誘ってくれる。




3年生、高校最後の年。


相変わらず将来の夢も希望も見つからないし、

それどころか未だに高校に通う理由も見い出せていない。


だけどこの穏やかな時間だけは、

そんなことがいかにちっぽけなものなのかを感じさせてくれる。


吹き抜ける初夏の風が、そんなあたしの小さな悩みごと連れ去ってくれてるようで。




「…あー…時間切れ…」


取り出した携帯で、時間を確認した。


何だかんだ言っても結局、卒業はしなきゃならないから。


ため息を混じらせながら体を起こし、髪の毛を直した。


そして今まで自分の下に敷いてあったマリーちゃんの遠足用のゴザを、

たたんでバッグに投げ入れる。


学校に持ってきてるものは、財布と携帯、煙草とメイクポーチとこのゴザだけ。



どうもあたしは昔から、集団生活に馴染めなくて。


まるで洗脳のようにみんなで何かひとつのことをやるなんて、本当に苦手。


押し付ける教師も、それを当たり前のように思う生徒も。



保育園の頃、みんなで一緒になって外で遊ぶことが嫌だと言ったら、

先生に調子が悪いんだと思われて、早退させられてしまった。


小学校の頃、風景画を描けと言われたので空の絵を描いたら、

水色で塗りたくったあたしの絵を見た友達が、

“水たまりなんかなかったよ?”と、変なことを言ってきた。


中学になって部活に入れと言われたけど、

自分に合うものがなかったから帰宅部を選ぶと、

“帰宅部は部活じゃない!”などと、やっぱり変なことを言われた。


みんなみんな、変なのだ。


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