《短編》空を泳ぐ魚
去っていく清水の後姿を見つめながら俺は、ため息を混じらせた。


毎度毎度、まるで他人のことを話しているような口調の清水の会話に、

何だかやりにくさばかり感じてしまう。



「清水の今日の記録、何秒?」


清水が居なくなった教室では、生徒たちがそんなことを話し出す始末だ。



「アイツ、エンコーしてるってマジだと思う?」


「さぁな。
でも、テクニック凄そうじゃね?」


「でも、マジ可愛いし、女王様キャラだし。
俺、アイツにならヒールで踏まれても良い!!」



清水に付き纏う、良くない噂。


エンコーしてるかどうかなんて定かじゃないし、

ぶっちゃけ俺にとってはそんなのどっちでも良いけど。


あながち嘘に聞こえないのは、その見た目も大きく関係してるのだろうな、と。


こんなことを思ってしまう俺は、全然教師に向いていないのだろう。




適当に進学した大学で、親の勧めもあってとりあえず取った教員免許。


受験で言うところの“スベリ止め”。


だったはずなのに、見事に落ちまくった就職活動。


適当に進学して、適当に4年も過ごしていた結果がコレだ。


結局俺は、適当な私立の教員になった。


職にあぶれなかったことだけは良かったけど、

どう考えても俺は、“教師”なんて仕事に誇りを持てない。


ガキに情熱を注げるほど興味もないし、ぶっちゃけ俺自身、勉強嫌いだし。


仕事、仕事、と。


自分自身に言い聞かせる日々。



そんな中にあって、清水だけは別だった。


最初は目を引くその見た目から入って、何故か興味を引かれる対象となった。


こんな規律正しい異質な空間にあって、清水だけはそれを受け入れたがらない。


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