《短編》空を泳ぐ魚
「ケチだね。」


何も言わない俺より先に口を開いたのは、清水の方だった。


そしてあからさまに俺に向かってため気を吐き出しながら、

弁当を持ってレジへと向かう。


本当に、やりにくくて疲れる。


俺も隣のレジで会計を済ませ、同じタイミングでコンビニを出た。



「…大先生様、生徒にモテるくせに彼女のひとりも居ないんだね。」


俺の手に持つ弁当の袋を指差し清水は、それだけ言って。


“じゃあね”と言葉を残し、俺に背を向けた。



「清水!」


瞬間、気付いたら俺は、声を上げていた。


だけど、言葉が続かなくて。


不思議そうに清水は、足を止めて俺を振り返る。



「…何?」


「…えっと…。
お前今日、ご両親とか居ないのか?」


今度は俺が清水の弁当を指差し、最初に思い浮かんだ言葉を並べた。



「…プライベートまで答える必要なくない?」


だけど返って来たのは、先ほどと同じ言葉。


何かもぉ、“良い先生”を演じるのにもいい加減疲れ果てて。


ポケットから煙草を取り出し、一本を口に咥えて火をつけた。



「…じゃあ、ひとりの男として聞くけど、お前ってマジでエンコーしてんの?」


「―――ッ!」


煙を吐き出しながら聞く俺に、さすがの清水も目を見開いた。


だけど次の瞬間には、クスッと笑みを零して。



「…気になるんなら、確かめてみれば?」


「―――ッ!」


思ってもみなかった返答に俺は、やっぱり返す言葉が出てこなくて。


俺達の間に、夏を前にした湿度を含んだ風が吹き抜けた。


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