その瞳で見つめて~恋心~【完】
「好きなおかず、ある?」

「えっ、くれんの!?」

「うん」

「ありがとう、水嶋さん!」

進藤君が無邪気な笑顔を見せると、あたしの心臓が高鳴った。


──って!
また、ドキドキしてる……!


「じゃあ、卵焼きもらっていい!?」

「あ……、うん。どうぞ」

あたしがお弁当を差し出すと、進藤君は「うーん……」と唸りながら悩んでいる。


どうしたんだろう?


「じゃあ、あーんさして?」

「えっ!?」

あっ、あーん!?
今!?
ここで!?


進藤君の驚きの発言に、自分でも赤面していることがわかるぐらいに顔が熱くなっている。


「いいでしょ? ほら、今は誰もいないし。ね……?」

「ち、近いっ……」

進藤君は整った顔を接近させ、囁くようにして話す。

そのとき、進藤君の息がかかりそうな距離にあって、さらに脈拍が速まる。


「してほしいなぁ……」

うっ、そんな上目づかいで見ないでほしい……。


進藤君の態度や仕種──ある程度は克服できたんだけど、この上目遣いへの苦手意識だけが払拭(ふっしょく)できない。


「わ、わかったよ……っ」

「ホント!?」

「うん」

肯いて卵焼きをお箸(はし)でつまむと、進藤君に手を掴まれて制されてしまった。


「え?」

「ちょっと待って。箸じゃなくて、手でちょうだい?」
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